>>決勝戦の赤競.NETを表示する
魂の走りに勝利の女神が舞い降りた。昨年のグランプリに続き近畿勢はひとりとなった村上義弘は、競輪場入りする前に練習で落車のアクシデントに見舞われた。今年の一年を象徴するようにグランプリでも満身創痍の戦いを余儀なくされたが、最後の大一番で“らしさ”を見せた。
「正直、ろっ骨は深く息をすると痛みも出る。とにかく自分の不注意でそうなったんで、ファンのみなさんには見せないようにした」と、弱音を吐くことなくレースに臨んだ。
「とにかく前団、前団で勝負しようと思ってました」との、言葉通り主導権を握って出た深谷知広ラインの3番手をキープ。最終2コーナーからは降りしきる雨のカーテンを切り裂くように、自らを信じて踏み出した。
「どの位置になっても自分の行けると思った位置から。仕掛けられると思った位置から行こうと思ってました」
逃げた深谷をまくりで飲み込んだが、そこからは単騎の苦しみ。すかさず浅井康太が後位にスイッチ。ラインの援護のない村上にとっては、すべてをひとりで凌ぐしかなかった。
「ゴールした瞬間は外も伸びていたんで、自分が1着かどうかはわからなかったです。自分の目でオーロラビジョンのスローになったところを確認して、残っていてくれっていう気持ちで見ていました」
単騎での戦い。ゴール後もひとりで優勝の確信の持てない村上の気持ちを後押ししてくれたのは、常日頃から大事にしてきたファンからの声援だった。
「自分がオーロラビジョンで確認する前から、ファンの人たちの声援がすごかった。それでひょっとしたらって思ったし、本当にありがたかったです」
故障が癒えないままレースを続けた村上にとっては、苦しみぬいた一年。それだけにファンから声援が、責任感の塊となって村上を奮い立たせた。
「今年一年は苦しいことばっかりで。思い返してもいいことはなかった。だから最後に笑えてよかったです
叫ばれる世代交代。周囲からは引退の噂が流れたことに、共同記者会見での村上が一笑に付す。
「今年は成績が悪くて、引退という噂もささやかれたけど。そういう噂を払しょくできるように頑張ります。本当にこの一年、心配とご迷惑をかけました。最後はこうやってみなさんに声援をもらえることができて、ホッとしています」
6度目のグランプリ挑戦でつかんだ栄光。これからも全身全霊をもって戦い抜く村上の競輪人生は続き、ファンに夢と希望を与えていく。
「これでやっと弟(博幸)に追いつけました。今後も期待に沿えるように、一戦、一戦頑張ります」と、ファンへ熱い走りを約束して、今年を締めくくった。
赤板を通過した1コーナーで武田豊樹と併走の佐藤友和が、誘導員との接触して車体故障。早々とリタイアを余儀なくされた。レースは不穏なムードが漂った。
「武田さんに締め込まれて、戻ろうした時に…。俺のミスです」と、佐藤は言葉少な。
ラインの先頭を失った北日本勢は、山崎芳仁が自力にチェンジ。最終1センターで後方からからまくりを打つと、グングンと加速。最後は浅井に張られて不発も、スピードをもらった成田和也が、村上と浅井の間をこじ開けゴール勝負に持ち込んだ。
「最後はあの差が力差なんでしょうね…」と、成田はタイヤ差の準Vに唇をかむ。
「(佐藤)友和がいなくなってから、山崎は冷静に思い切って仕掛けてくれた。最終バックでは山崎はまくり切ってしまうのかと思った。自分はもうあそこのコースしかなかった。集中して走れたし、来年はもっと頑張らないと」
武田を叩いた深谷が主導権を奪取。絶好の番手から浅井康太は、村上にスイッチ。最終4コーナーから村上を交わしにかかるが、成田に内から当たられて自慢のスピードがわずかに鈍った。
「村上さんに合わせて(自分が)出て行くか、あれかのどっちかですからね。村上さんはもうワンテンポ遅く来ると思った。でも、あそこで来るのが村上さんなんで勉強になった。もう一回勝負しにいったけど、成田さんに絡まれて伸びなかった…」
深谷に叩かれた武田豊樹は4番手に下げて万事休す。見せ場を作れずも、う優勝した村上を潔く称える。
「悔しいけど、勝つべき人が勝ったと思う。(村上は)ライバルであり、ファンでもあるんで」
昨年のグランプリに続き主導権を握って出た深谷知広だったが、今年もゴールまでもたずの8着。競輪祭での落車が尾を引きずっているのか、足早に報道陣を掻き分けるその表情は険しい。
「力不足です。弱いだけ、また練習して出直してきます」
|